「10時過ぎたよー。みんな部屋に戻ろうか」

「はーい」

そろそろ就寝準備の時間である。

キリのいいところで生徒たちを部屋に戻さねばならない。

彼らはこれから布団を敷いたり順番に歯磨きをしたりして、眠るための準備をする。

国語部屋でずっと話していた女子高生は、三人仲良く部屋へと戻っていった。

部屋に入ったら、今度はよりディープな恋バナに花を咲かせるのだろう。

そこで松野はどんな話をするのか、私は全然想像できない。

パッと見て可愛いタイプだが、いかんせんあのシャープな性格だ。

素直に自分の恋愛を語れるとは思えない。

それとも、友人たちの間では、わりと素直になったりするのだろうか。

重森とは風呂の前以来、一度も顔を会わせていない。



点呼を取る前、私たち講師は南先生の部屋に集まって短いミーティングを行う。

講師は塾長を含め、全部で5名。

南先生、小谷先生、利かを担当している男性の田中(たなか)先生、そして俊輔と私。

田中先生は艶やかな黒髪でメガネをかけており、寡黙な感じがする。

挨拶や業務に関すること以外、ほとんど話をしていないから、彼がどんな人なのかよくわかっていない。

無表情だしネクラな感じがするけれど、顔立ちはなかなか整っているような気がする。

「今日は一日お疲れ様でした」

「お疲れ様でした」

南先生の号令でミーティングがスタート。

今年は集合に遅れる生徒がいなくてよかったとか、参加率が悪かった分夏休み明けの実力テストで成果が出せるような指導をしようとか、そういう話が出た。

11時に消灯の点呼に回るまで、しばしの休憩タイム。

講師同士の談話の時間となる。

「お疲れー」

俊輔が私の隣に座る。

生徒といたときとは違う“彼氏”の表情だ。

私の恋人ながら、昨日までは密かに「頼りない」と思っていたのに、こうも器用に表情を切り替えられるのかと感心する。

しかし同時に、さっき小谷先生と話したときの悔しい思いが蘇った。

「ほんと、疲れたよ……」

ぶっきらぼうに返した私。

私の気など知らない彼は、クスッと笑う。

「珍しいじゃん。そんな顔して」

「どんな顔よ?」

「今の顔はイケてないぞ」

「はあ?」