南先生はその後、食事をしながら他の講師たちにも話を聞いていく。

「小谷(こたに)先生、英語のクラスはどうですか?」

「うちもはじめは面倒くさそうにしてましたけど、何とか全員に課題をーー」

「理科クラスは高校生がいないので全員に同じ課題を与えてーー」

他の部屋の情報を共有し、負担が片寄れば協力して分割する。

「……というわけで、英作文の採点がなかなか終わらなくて」

「あ、俺もう手が空くんで手伝いますよ」

講師同士の横の繋がりがしっかりできていて、雰囲気がいい。

うちの進学塾は仲が悪いというわけではないけれど、ここまで和やかではない。

同じ『塾講師』というアルバイトでも、勤め先によってここまで文化が違うのかと驚いた。

食事の後は交代で生徒の監視をしながら講師の入浴時間になる。

私は先に英語担当の小谷先生と入ることになった。

小谷先生は大学3年生で、私や俊輔よりもひとつ先輩。

だけど小柄で可愛らしい顔立ちの彼女は、実年齢より上に見られがちな私よりも年下に見える。

「あの子たち、生意気でしょ」

大浴場、女風呂。

大きな湯船に二人で贅沢に浸かっていると、小谷先生が私を労うように言ってくれた。

「はい、かなり。扱い方がわからなくて疲れました」

正直、慣れない職場での業務より、人間関係が一番不安だった。

特に女性はこじれやすい。

だから小谷先生が気さくに話しかけてくれるタイプで、とてもホッとしている。

ピンクのタイルで統一されている女風呂に、私たちの声が響く。

おもいっきり脚を伸ばしたり、揉んだりさすったりして、今日の疲れと鬱憤を吐き出してゆく。

「ホント素直じゃないのよねー、あの子達くらいの年齢の生徒って。課題ひとつやらせるのにも苦労するもんね」

「小谷先生のクラスでもですか?」

なんだ、あの二人が特別やる気がないのだと思ってたけど、違ったんだ。

「うん。うちの塾って結構ユルいんだけど、その分講師の仕事は大変なの。生徒が言うこと聞かないから、何事もスムーズに進まなくて。仕事が楽だったことなんてないなー」

彼女の言葉を聞いて、納得した。

確かに私の勤めている塾の生徒の方が学力が高いし、授業の内容もハイレベルになる。

授業を行うにも、予習や準備をしっかりしていかないと、やっていけない。

だから、俊輔が大学でヘラヘラこの塾を語っているのを聞いて、予習が少なくて楽そうだなぁなんて思っていたのに。

俊輔は全然楽なんかしてなかった。

学習内容やテストの点数ばかりと向き合っている私よりも、生徒自身と向き合っている俊輔の方がよっぽど苦労している。

私、なんにもわかってなかったんだ……。