「ちょっと! 砂!」
「ひゃあー!」
俊輔は海に足をつけ、一人で騒ぎ始めた。
私の叫びなど聞こえていないようだ。
しばらく眺めていると、大きな波が俊輔の足に打ち寄せ、ハーフパンツの裾を濡らしたのがわかった。
「ぎゃあ! 濡れた!」
「あっははははは!」
俊輔はしばらくそうして海水と戯れていたが、ふと何かを思い出したように海に向かった。
「――――!」
何かを叫んだが、波の音にかき消されてよく聞こえない。
私もその場に靴を放置し、俊輔の隣へ慎重に歩みを進める。
ロングスカートでは彼のようにははしゃげない。
「何て叫んだの? よく聞こえなかった」
「別に、大した言葉じゃないよ」
「ますます気になるんだけど」
すると彼は大きく息を吸って、口に両手を添え、地平線の彼方に向かって再び大声をあげた。
「学び人夏週間ー!」
そしてスッキリしたような笑顔をこちらに向ける。
「え? 何それ?」
学び人という言葉から、みなみ塾に関係しているのだということはわかる。
だけど、全体的に聞き馴染みがない。
「合宿だよ。彩子に手伝ってもらった、みなみ塾の合宿のイベント名」
「イベント名なんてあるんだ」
「そう。“学び人夏週間”っていうんだ」
fin.



