「いただきます!」

「いただきまーす!」

号令とともに、ディナーが始まった。

合宿の間は朝食も昼食も夕食も、給食方式で頂く。

プラスチック製のプレートに箸を乗せ、順路に沿って食器に入れられたご飯やおかずを受け取ってゆく。

おかわりはおかずがなくなるまでの早い者勝ち。

風呂上りだからか、生徒たちから石鹸のいい香りがする。

私たち講師は食事の後に交代で入る予定だ。

「はい、みんな注目」

食事の最中、塾長の南先生が前に立った。

優しそうな顔の中年男性で、合宿では数学を担当している。

「えー、食事が済んだら自由時間です。夏休みの宿題に当てる子が多いと思うが、別に部屋で遊んでてもいいぞ」

はーい、と返す生徒の声は明るい。

南先生がみんなに慕われていることがわかる。

それにしても、塾の合宿がこんなにゆるくていいのだろうか。

私が勤める進学塾の合宿では、早朝から夜の10時まで、みっちり授業が行われるのだが。

「国語の生徒たちの様子はどうですか?」

南先生が席に戻るなり笑顔で私に尋ねる。

「あ、はい。最初は課題を嫌がりましたけど、何だかんだで真面目にやってました。二人とも国語が苦手というよりは単に面倒くさがっているだけで、慣らすだけでも成績は上がりそうですね」

簡単に様子と感想を伝える。

南先生は何度か頷きながら「そうですか」と微笑んだあと、申し訳なさそうに眉を寄せた。

「佐々木先生の勤めている塾の生徒さんたちとは、全然雰囲気が違うでしょう?」

「そうですね。ちょっと驚きました」

これでいいの? もっとガツガツ勉強させた方がいいんじゃないの?

そう思っていることは、バレていたらしい。