約1ヶ月後。
私と俊輔は、約束通り旅行に来ている。
やって来たのは所々に湯気の立つ温泉街だ。
温泉街は初めて訪れたのだが、噂通り、ゆで卵に似た硫黄のにおいがすることに感動した。
「すげーイイ感じの旅館じゃん、ここ」
広くて清潔、そして静か。
そしてここは、部屋に露天風呂までついている。
「でしょ? オフシーズンの平日だから取れたんだけど、見つけるのだって苦労したんだから」
合宿を含め、夏期講習のバイトを頑張ったからこそ取れた、学生にはちょっぴり贅沢な部屋だ。
「ありがと。俺は彩子とイチャイチャできれば、ホテルなんて別にラブホでもどこでもよかったんだけど」
「そんなの私が嫌だよ」
「することは同じじゃん?」
まったく、男ってやつは。
頭の中に、松野と飯島の顔が浮かぶ。
「いやいや、全然違うから。主にスタンスが」
私の小さな怒気を感知した俊輔が、機嫌を取るように私を抱き締めキスをした。
そして許しを乞うような顔で尋ねる。
「しないの?」
「……するけど」
まったく、私も私である。
この地へ着いてから一通りはしゃぎ終えている私たちは、今日これ以降は旅館付近でまったり過ごすことにした。
まだ残暑の厳しい9月だ。
俊輔はエアコンの風の当たりがいい場所を陣取り、畳の上に大の字に寝転んだ。
「温泉入って、ご飯を食べに行って、それからどうする?」
私が豪華なちゃぶ台に観光案内雑誌を広げながら問いかけると、俊輔も起き上がって私から雑誌を眺める。
「ここ海近いじゃん。夕日はもう無理だけど、夜の海にでも見に行ってみる?」
「いいね」



