「ちょっと、今チュッて聞こえたよ! 後ろのおふたりさん、イチャつくのは家に帰ってからにしてくれる?」
小谷先生のツッコミに、俊輔が悪びれもせずに言い返す。
「すんません。俺、泣いてる彼女に冷たくできないっす」
「くそー。リア充爆破しろ! 田中先生も何か言ってやってくださいよー」
「すみません、小谷先生。僕にも恋人がいますので」
「うそ、ぼっち私だけ!?」
また車内が笑いで溢れる。
私は泣きながら笑った。
よかった。
参加してよかった。
あの子たちに出会えてよかった。
この塾の先生たちに出会えてよかった。
何度もムカついた。
何度も困らされた。
だけど、彼らのおかげで私は頑張れた。
そして、彼らのおかげで私はこれからも頑張れると思う。
いつか、きっといい教師になろう。
夢を叶えるために頑張ろう。
私は大事に手紙を封筒に戻し、自分のバッグの中へしまった。
車は間もなく街中へ出て、所々で赤信号にひっかかるようになった。
街から遠く離れた合宿場は非日常的な山の奥だったが、手紙を読んでいる間に日常の世界へと引き戻されていたようだ。
いったんみなみ塾で備品を下ろし、田中先生の好意で各々自宅まで送ってもらった。
「本当に、お世話になりました」
「こちらこそ。しかしまだ夏期講習がありますからね。お互いに、頑張りましょう」
「はい」
田中先生の車を見送る。
家に帰るまでが遠足、という言葉があるが、同じ考えで言えば自宅に着くまでが合宿と言えるだろう。
「ただいま」
一週間ぶりの自宅は懐かしいにおいがした。
私の合宿は、これで完全に幕を閉じた――。



