私は重森の手紙を封筒に戻し、もうひとつの封筒を手に取った。
すると、手紙を取り出す前に封筒ごと俊輔に奪われてしまう。
「げっ、なんだよ。これも親展じゃん。つーかあいつら親展なんてよく知ってたな」
俊輔はそうぼやき、諦めたように私に封筒を返す。
すると運転席の田中先生がクスリと小さく笑った。
「市川先生が読もうとするだろうからと、僕がそう書いておくよう助言しました」
ボーッとしているように見えて抜け目のないミステリアスな田中先生と、一瞬だけ目が合う。
ふ、と微笑まれ、私の胸がドキッとする。
彼のこの不思議な魅力を、俊輔が少しでも吸収してくれることを期待しよう。
「田中先生の入れ知恵かよー。まったく、なんてことするんですか」
頬を膨らませた俊輔に、小谷先生が指摘する。
「実際読もうとしたじゃない。人の手紙を読むのってプライバシーの侵害よ」
「ちぇー」
車内がふたたび笑いに包まれる。
私は俊輔から松野の方の封筒を取り戻し、開封した。
重森とは違う整った小さい字で書かれた手紙は、重森のものと同じ紙に書かれているのに、ずいぶん違った雰囲気を醸し出している。



