南先生は落ち着いた声で尋ねる。

「どうしてそう思ったのですか?」

「私、生徒は我々講師が指示をすれば、自発的に取り組んでもらえるものだと思っていたんです。実際、私の勤めている塾の生徒は進んで課題に取り組んでくれます。きっと私は今まで“取り組ませる”という部分で楽をしていて、同じ楽をここでもしようとしていたんです」

自分もほんの5年前までは彼らと同じ年代だったのに、講師だからって上から目線だった。

私は彼らにとって嫌な大人に見えていたことだろう。

それが教師を目指す者としては怠慢であったことに、この合宿に参加して初めて気づくことができた。

「接しているうちに、彼らも笑顔を見せてくれるようになりました。色んなことを話してくれるようにもなりました。正直、この合宿で彼らにためになる何かを教えてあげられた自信はありません。でも、私はたくさんのことを学びました」

真面目でない生徒と接することで、狭くなっていた視野が広がった。

勉強以外のことに必死になる彼らを見て、自分がすっかり型にはまっていることに気づかされた。

予測できなかった事態に見舞われて、自分で考えて行動することの大切さを痛感した。

それから、恋人への気持ちを再確認できた。