声をかけてきたのは、南先生だった。

「あ、はい」

そのまま講堂から連れ出され、南先生の部屋へ。

部屋のテーブルにはすでに私のための座布団が用意されており、促されるまま南先生の向かいに座る。

「佐々木先生、今日まで本当にありがとうございました」

南先生が、かしこまって告げる。

私は恐縮して、勢いよく頭を下げた。

「こちらこそお世話になりました!」

南先生はおっとりしているように見えて、言葉ではうまく言い表せない、強い存在感がある。

ふたりきりの空間で、彼の雰囲気に萎縮してしまう。

「急に呼び出してすみません。私は生徒たちとバスで戻りますから、最後に佐々木先生とゆっくりお話しする時間が欲しかったんです」

彼はそう言いながら紙コップにお茶を注いでくれた。

私は「どうも」と告げ、ひと口いただく。

「改めて聞きますが、今日までいかがでしたか?」

南先生は、よそ者の私にも自由に働かせてくれた。

ルールで縛ったりみなみ塾の文化を強要したりせず、私自身を信用し、あのふたりを任せてくれた。

「楽しかった」とか「いい経験になった」などと、取って付けたように月並みな言葉で返すのは、不誠実な気がする。

私は彼に、正直な気持ちを語ることを決意した。

「初めてあのふたりと対面したとき、“なんてかわいくない生徒たちなんだ”って思いました。無愛想で、無関心で、驚きましたし、自信をなくしました」

南先生が、「ははは」と困ったように笑った。

「“やる気がない”。“やりたくない”。そう言う彼らをどうしていいかわからなくて、合宿に参加したことをとても後悔しました。だけど今思い返せば、かわいくないのは私のほうでした」