「重森はあとどれくらいで終わる?」
「今社会の最後のページやってる。それが終わったら答え合わせ」
松野が仕上げたのを見て焦っているのか、重森は早口で告げた。
本気になった時の速くて重い筆音が教室に響く。
集中している彼を見て、心が躍る。
こんな顔もできるのか。
いつもこれくらい真面目な顔をしていれば、松野も見る目を変えると思うのだが。
私たち女は、男の真剣な眼差しに魅力を感じる生き物だ。
いつもヘラヘラして頼りない俊輔を私が好きになったのも、彼の本気を垣間見たのがきっかけだったと思う。
重森が赤ペンを握った。
答え合わせをして、誤りを直したら完了だ。
快い正解の音。
もどかしい訂正の音。
のんびりと学校の課題に勤しむ松野も、重森を気にしている。
彼女もきっと、気持ちは私と同じだ。
がんばれ。ゴールまであと少し。
重森の雑な回答は、不正解が多い。
最後の方の和文英訳の問題では、丸がつかないうえに訂正も長い。
がんばれ。がんばれ。



