「佐々木先生、ちょっと」
遠慮がちに呼ばれて顔を上げる。
国語部屋の扉のところで、俊輔が手招きをしていた。
生徒ふたりに聞かれてはいけない業務的な話だろうか。
課題のチェック作業の途中だが、私は手を止め彼のもとへ移動した。
促されるまま部屋を出て、扉を閉める。
「なに? どうかした?」
小声で尋ねたが、勉強時間でしんと静まっている廊下に声がよく響く。
「ひとつ仕事を頼みたくて」
「仕事?」
「昨日のキャンプファイヤーの片付けなんだけど。グラウンドに放置してる煤を掃除してほしいんだ」
俊輔はそう言って外用のほうきと塵取りを手渡してきた。
「掃いて煤を集めればいいのね?」
「うん。グラウンドに黒い跡を残さないようにしたい」
「わかった」
私は教室にいるふたりに声をかけ、太陽の照りつける外へ出た。
暑い。
日差しがキツい。
グラウンドには日差しを遮るものがほとんどない。
グラウンドは昨日火を点していた場所だけ明らかに黒く汚れている。
やぐらの木の灰は、すでに誰かが片付けてくれている。
煤で汚れているのは直径1メートルちょっとの狭いエリアだ。
ほうきで掃き、塵取りですくい、用意されていたビニール袋に煤を集めていく。
煤とグラウンドの砂が混じるが、ふるい分けることもできないから、砂ごと塵取りにかき込む。
思ったより量が多く、思ったより時間がかかりそうだ。
終わったら灰で汚れた道具を洗わねばならない。
掃いては袋に詰め、黒い部分がほとんどなくなったところでトンボでなくなった砂を他から持ってきて地面をならす。
汗だくだ。
教室に戻る前に部屋で汗を拭いて着替えよう。
せっかくまとめた荷物を開けるのはもったいないが、今日一日中汗くさいよりましだ。