「初日の夜、僕が佐々木先生のことを『好みのタイプ』だと言ったんです。そしたら市川先生が、『彩子は俺の彼女だから、絶対に手を出差ないでください』と、頭を下げられてしまいました」
急に、そして急激に、アルコールが体中を巡っていく感覚がする。
一気に顔が熱を帯び、恥じらいと困惑の混じった複雑な感情が胸の中で踊りだした。
「そ、そうでしたか……」
「大事に思われてるんですね」
田中先生を介して伝わった彼の言動。
他人から聞くからこそ感じられる真心。
こんなに愛しさが増しているのに、それを表現できない環境が憎い。
「もー、何の話?」
小声で話す私たちに痺れを切らした小谷先生が、ますます不機嫌そうに酒を煽る。
「市川先生が僕を脅した話です」
田中先生の適当な返事に、小谷先生の目が輝く。
「え、なにそれ聞きたい!」
すると、自分の名前が聞こえて混ざりたくなったのか、俊輔がこちらにやって来た。
このままふたりで並ぶのはとても気恥ずかしい。
私はこの場から離れるべく、立ち上がった。
そのまま私がいた場所に、俊輔が腰を下ろす。
私は南先生の傍らに膝をつき、声をかける。
「お疲れさまです。おとなり、よろしいですか?」
かわいらしいイチゴ味のチューハイを飲んでいる南先生は、穏やかで優しい笑みを向けてくれた。
「お疲れさまです。もちろん、僕の隣でよければ」
私は彼の横に、正座をした。
「南先生。明日は最終日で時間が取れないかもしれないので、今のうちに申し上げておきたいことがあります」
ちょっとカタすぎただろうか。
南先生は緩ませていた表情をわずかに引き締めた。