部屋に戻るなり、私は小谷先生に向けて頭を下げた。

「市川先生とのこと、隠しててすみませんでした」

私は特に悪いことをしたわけではない。

隠していたのは業務に支障を来さないためだ。

だけど、私たちが付き合っていることを申告しておけば、彼女が大胆な行動に出て振られてしまうことはなかった。

恥をかくことなく、静かに恋を終わらせることができたはずなのだ。

そんな私に、小谷先生はまた笑ってくれた。

「謝らなきゃいけないのは私のほうだよ」

「え?」

小谷先生は枕を抱えて顎を乗せ、私を上目使いで見つめる。

「実は私も、市川君のこと好きなんだ」

「知ってます」とは、言えるはずもない。

私は出来る限り自然に、驚いた素振りを見せる。

「そう……なんですか?」

「でも実はね、すでに3回振られてるの」

「えっ……!」

これは自然な驚きだった。

3回って、なかなかの回数だ。

それだけ俊輔に魅力があるということだが、彼女としては複雑である。

そもそも、彼がモテる男だとは思っていなかったし。

「佐々木先生が彼女だって知らなかったから、合宿中にも一度アタックしちゃったよ」

「そうだったんですか」

おそらく、抱きついていたあのときのことだろう。

「1週間も一緒にいるんだもん。遠くにいる彼女なんかより私のこと、見てくれるかもしれないと思って。でも全く相手にされなかった。そりゃそうだよねー。ちゃっかり彼女連れてきてるんだもん」