松野は予想通りの回答にさして興味などないとばかりに適当な相づちをうち、視線を私の方へ向けた。
悪い予感がして口を開こうとしたが、先に声を発したのは彼女の方だった。
「佐々木先生は、市川先生と付き合ってどれくらいになるんですか?」
ああ、やっぱり。
密かに恐れていたことが現実になってしまった。
小谷先生に、私と俊輔の関係を知られてしまった。
「え?」
小谷先生が驚きだけではない複雑な表情で私を見る。
どうしよう。
私はどう反応していいかわからず、誰が聞いても動揺を悟れるくらい下手な笑い声をあげた。
なにかを察した松野が、あっけらかんと告げる。
「もしかして、これって聞いちゃマズかったパターンですか?」
「いや……そういうわけじゃ、ないんだけど」
私の声は震えたかもしれない。
けれど大浴場のエコー効果でごまかせたはずだ。
小谷先生の方を向くのが、怖い。
「なんだー、佐々木先生の彼氏って市川先生だったの?」
先に言葉を発したのは小谷先生だった。
なんてことないように笑っている。
笑ってくれている。
「はい……実は」
私が答えると、小谷先生はますます笑顔になった。
無邪気に恋バナを楽しむ風に演じてくれている。
「部屋に帰ったらいろいろ聞いちゃおっと」
「お手柔らかに……」
笑い声が響いているが、気まずい雰囲気になってしまった。
松野は松野で何かを察したようで、申し訳なさそうな顔を私に向ける。
私は松野には「大丈夫」というような笑顔を返したが、俊輔を好いている小谷先生に向けて上手に表情を作れるか自信がない。



