ここの湯は温泉ではないが、大きな湯船は天国だ。
まるで疲れの成分が湯に溶け出してゆくように体がほぐれていく。
「ふー……、生き返る」
私の声が浴場に響いた。
浴槽の底に手をついて、昨日今日でよく働いた脚を湯に漂わせる。
脚から完全に力を抜くと、どんどん血が巡って足が楽になっていく感覚がする。
「手伝いは嫌でしたけど、煙にまみれた後にお風呂に入れたので、結果よかったです」
松野の言葉に小谷先生が笑い声をあげた。
「ほんとだね。部屋に戻ったら、きっとみんな焼き肉臭いよ」
幸か不幸か、とはこういう時に使うのだろう。
昨日もハードだったけれど、今日もよく働いた。
合宿は明日で終わりだ。
早く終わってほしい気持ちもあるし、ちょっと寂しい気もする。
重森や松野はこの合宿でどれだけ成長したのだろう。
ふと松野を見ると、珍しく口角が上がっている。
「松野、なんかスッキリした顔してるね」
松野は口角をさらに上げ、ニッコリ笑った。
「はい。実は、さっき彼氏と別れたんです」
「えっ……」
私は驚いて、浴槽の中で体を支えていた手を滑らせた。
お尻からずるっと顔までお湯の中に入り、鼻からお湯を吸ってしまう。
鼻と口の間が何ともいえない痛みに襲われ、私は溺れた人のように派手に暴れた。
そんな私を見ている二人は大笑い。
恥ずかしいったらありゃしない。
「別れた?」
苦しむ私をよそに、小谷先生は笑いながら会話を進める。



