学び人夏週間


田中先生、さっき『人の女』って言った。

私に彼氏がいること、知ってるんだ。

きっと松野か重森から伝わったのだろう。

でももし、私に彼氏がいることを知らなかったらどうしてた……?

期待と想像が膨らんで、顔が熱くなる。

「佐々木先生ー、どこー?」

松野の友達二人の声がして、私は慌てて妄想をかき消した。

「はーい!」

缶を空けて強く短く息を吐き、少し顔の熱を冷ましてから彼女らのテーブルへと向かう。

松野がクールにトングで肉と野菜を操っている。

「ねえねえ、あたし大きいお肉食べたい」

そうリクエストすると、松野は慣れた手つきで紙皿に肉をのせた。

「はい。これ、焼けてますよ」

「ありがと。ちょっと焦げてない?」

「文句言わないでください。そして野菜も食べてください」

そしていい焼け具合のカボチャも皿にのせられる。

松野は意外と面倒見のいいタイプらしい。

横でキャッキャと騒いでるふたりや他の生徒にも、いそいそと肉を取り分けている。

ふと気づくと、中3の席から重森が松野を見つめているのが見えた。

次の瞬間パッと目が合う。

私に松野を見ていたことがバレた彼は恥ずかしそうに肩を上げ、食事に戻った。

飯島は松野と同じ高1のテーブルについてはいるが、少し離れたところで周囲の男子たちと楽しげにしている。

松野と飯島は、私が見ている限り、目すら合わせることはなかった。



食事が終わると、キャンプファイヤーだ。

生徒たちはある程度食事の片付けをして、グラウンドに移動した。

私と小谷先生は残りの片付けをするため、キャンプファイヤーはお預けである。

「3・2・1、点火!」

「キャーーーー!」

グラウンドからカウントダウンと歓声が聞こえてきた。

いい感じに盛り上がっている。

「楽しんでるみたいだね」

生徒が集めたごみを大きな袋にまとめている小谷先生が笑う。

「勉強漬け……とは言えませんけど、頑張ったご褒美ですね」

私はテーブルクロスを外し、指定されたランドリーバッグへ。

バーベキュー会場がだんだんと本来の広場へと戻ってゆく。