こんなの、何年ぶりだろう。
恋とは少し違うけど、年上の男の人に憧れる気持ち。
「いやいや! 私、この合宿に入らせてもらってから、自分はまだまだだなって痛感させられてばかりで。全然自信持てないです」
「ははは、かわいいなぁ」
「えっ……?」
聞こえてきた言葉があまりに意外で、私は思わず彼の顔を見つめた。
似合わないメガネに負けないほどの視線があまりに強くて、一時的に呼吸が止まった。
田中先生が、今まで見たことのない色っぽい顔をしている。
「やだ、もう。お酒飲みながらかわいいだなんて、口説かれてるみたいじゃないですか」
私は笑ってごまかしたが、彼はさらに追い討ちをかける。
「口説いたら、俺についてきてくれる?」
これってまさか、本当に……?
私は何も言い返せず、間抜けに口を開けたまま固まってしまった。
数秒後、田中先生はそんな私をクスクス笑い始めた。
「安心してください。僕は人の女に手を出すような真似はしませんから」
そう言って空いたビール缶をごみ袋に入れ、私を置いて生徒たちの方へと行ってしまった。
胸がドキドキしている。
さすがにちょっと罪悪感を覚えて俊輔を見る。
楽しそうに生徒たちと盛り上がってる彼を視界に入れて、自分の心がじわりと温かくなるのを感じ、安堵する。
大丈夫。
私は年上の男性の魅力にあてられただけで、心変わりしたわけではない。



