みんなを眺めながらしみじみ感慨にふけっていると、突然左頬に冷たいなにかが触れた。
「ひゃあっ!」
驚いて体を震わせ、左頬に触れた物の正体を確認する。
視界に飛び込んできたのは、缶ビールと無表情な田中先生だった。
「すみません。まさかそんなに驚くとは思わなくて」
「いえ……こちらこそ大袈裟に驚いてすみません」
「飲みます?」
無表情だった田中先生が、ふと笑顔を見せる。
驚いたからか、それとも彼の笑顔がキレイだからか、胸がドキドキしている。
メガネを外した彼の顔が整っていることを知ってしまったから、またあの顔が見たい。
私は缶ビールをそっと受け取った。
「いいんですか? 飲んじゃって」
「生徒には、秘密ですよ?」
そう言って人差し指を立てて唇に当てる仕草がもう、どうにも色っぽく感じてしまう。
ミステリアスな男性というのは、こうして女性の心を掴むのか。
俊輔というよくも悪くも素直な男と付き合っているから、知らなかった。
田中先生が自分の缶を開ける。
私も続いてタブを引いた。
小気味よい音が、ふたりだけの隠れた空間に響いて、いけないことをしている気持ちになる。
「お疲れ様です。乾杯」
缶を持つ大きな手がこちらへやってきた。
「乾杯」
カコン、と軽く缶をぶつけて、ふたりで同時にビールを煽る。
思ったより冷たくて、美味しい。



