私は生徒たちがバーベキューを楽しんでいる様子を、建物の段差に座って眺めた。
網に肉と野菜を乗せて、焼いて、少し深みのある紙皿に焼肉のタレをたらし、割り箸で網をつつく。
肉を焼きすぎて焦げたとか、野菜に火が通っていなくて硬いとか言い合って、ゲラゲラ笑っている。
私は、正解することが、そのために努力をすることこそが、正しいと思っていた。
だけどバーベキューは、肉が焦げても野菜が固くても、楽しいのが正解だ。
美味しいに越したことはないけれど、お店で出てくるように上手に焼けなくたっていい。
お腹を壊さない程度に焼ければいいのだ。
勉強だってそうかもしれない。
苦手な科目があったり、いい点数が取れなくたって、幸せな人生を送れないわけではない。
私は高い学力さえあれば有利で豊かな人生を歩めると盲信して、本当に大切なものは何かを見失っていた。
そして俊輔は、私よりずっと前からそのことに気づいていた。
大学の成績は私の方がずっといいのに、やっぱりちょっと悔しい。
だけど、今は素直に彼を尊敬できる。
「あー! それ俺が狙ってた肉!」
「バーカ! 早い者勝ちだよ」
中学生と肉を取り合ってバカみたいに楽しそうにしている彼を見ると、心が温かくなった。
高3のテーブルには小谷先生がいる。
「私、いまだに第4文型と第5文型の違いがわからないんですよね」
「基本文型?」
「そうです。OとかCとか、英文読む上ではどうでもよくないですか?」
「たしかにねー。正しく読めさえすれば、文法用語はどうでもいいかも。正しく読めさえすればね」
こんな時にも勉強の話になるなんて、さすがは受験生のテーブルだ。
南先生は中1のテーブルで眉をひそめている。
「煙い! やけに煙いぞ?」
「ギャー! 扇ぎすぎて火が強くなりすぎたー!」
「肉焦げてる! 早く網からあげてー!」
このテーブルがいちばん騒がしい。
南先生も楽しそうだ。
「合宿も明日で終わり……か」
担当する松野と重森があまりにぶっきらぼうだったから、初日はどうなることかと思った。
……いや、実際に脱走騒ぎとかケンカとか、いろいろ事件があったけれど。
楽しかったなぁ。



