「ていうかさやか先輩がそっちにいるから重いんじゃん。俺が下に行くから、上行ってよ」
重森はぶっきらぼうな態度を取りながらも、しっかり松野に優しくしている。
「わかった。ちゃんと足元見てよ。階段あるからね」
「はいはい」
松野は松野で、重森のことがかわいくないわけではなさそうだ。
個人的には重森を応援しているのだが、松野には飯島がいる。
今後どうなるのか、定期的に俊輔から聞き出そうと思う。
グラウンドでは俊輔と田中先生がキャンプファイヤーの準備をしているようだ。
重森とのケンカで説教を食らった飯島はここを手伝わされている。
力仕事が多いため、男たたちだけでやるようだ。
小谷先生は食堂のスタッフと一緒に肉や野菜の準備をしてくれている。
南先生は花火を買い足すために、車で山を下りている。
気づけば長机の設置が完了したようだ。
ラジオ体操でしか使わなかった広場が、今日のディナー会場へと変わってゆく。
「もうこれで終わり?」
「汗だく。最悪。私もお風呂入っていいですか?」
疲れ切った顔をする松野と重森に、私は笑顔で告げる。
「はい。机全部にこのテーブルクロス貼って」
「ええぇぇ?」
撥水性の高いアウトドア用のテーブルクロスと画鋲を手渡す。
ふたりはうんざりした顔で受け取った。
「それが終わったら、食堂から紙皿と紙コップと割り箸を運んでもらうから」
「はあぁぁぁ?」
彼らのおかげで、バーベキューの準備はスムーズに進んだ。
日没までもう少し。
夕焼けで真っ赤に染まっていた空が、濃紺との美しいグラデーションをつくっている。



