午後6時。
本日の勉強時間はこれで終了だ。
私が終了の合図を出すと、説教で時間をロスした分ハイスピードで課題に取り組んでいた重森が、握っていたシャープペンシルを放って両腕を上げた。
「終わったー! あとは明日の午前だけ!」
ゆるい町塾の合宿とはいえ、それなりに勉強はさせられてきた。
はじめはやる気のなかった重森も、自分なりに目標やペースを見つけ、与えられた課題をこなすようになった。
これは紛れもない成長だ。
「明日で終わりかぁ。長かったなぁ」
この数日間でいろいろなことを経験した松野は、しみじみとそう呟いて机上の片付けを始める。
勉強方面では効率主義の彼女も、人間関係における問題に直面し、逃げたけど向き合って、乗り越えた。
スッキリしたような彼女の姿にも、成長を感じる。
私はこれから生徒たちが風呂に入っている間にバーベキューの準備に取り掛かる。
「今朝説明があった通り、この後風呂に入ってから……」
私がこれからの行動についての説明をしていると、部屋の扉が無遠慮に開いた。
入ってきたのは俊輔だ。
「はははは! お前ら、風呂なんかに入れると思うなよ」
「はあ?」
私と二人の声が見事に揃う。
俊輔はニヤリと口角を上げた。
「松野、重森。お前らは昨日と今日みんなに迷惑をかけた罰で、俺らと一緒にバーベキューの準備だ」
「準備?」
重森が不満げに言って首をかしげる。
「おう。面倒な作業をたくさんやってもらうからな。覚悟しろ」
松野は口には出さなかったが、顔から不満がだだ漏れである。
「ま、仕方ないんじゃない?」
私がそう告げると、二人は反省の色を滲ませ声を揃えた。
「はーい」
夕方といえど、強い西日で外はまだまだ暑い。
気温だけでなく湿度も高い環境での作業は、思ったよりも辛かった。
「ちょっとはじめちゃん! ちゃんとしっかり持って」
「ちゃんと持ってるよ」
なにやら騒がしいなと思って声がする方を向くと、松野と重森が二人で長机を運んでいる。



