せっかくキレイな顔なのに、隠してしまうなんてもったいない。
せめてもっと似合うメガネをかけたらいいのに。
こんなにもの静かな彼が元ヤンだなんて、きっと誰も思わない。
人はきっと変わるものなのだ。
「重森を帰すのが遅くなってすみませんでした」
田中先生がペコリと小さくお辞儀をする。
「いえいえ、こいつの自業自得ですから」
田中先生は私の返事を聞くと、にこりともせず、そのまま静かに国語部屋を出て行った。
扉が閉まった3秒後、重森が安堵のため息を漏らし、背を丸める。
「あの先生が来ると神経がすり減る」
重森の呟きに、私と松野は顔を見合わせた。
「いつもの田中先生じゃん。何が怖かったの?」
松野が問うと、重森は複雑な表情で松野を見つめた。
「怖いっていうか、トラウマ」
「トラウマになるほど怖くなくない?」
「さやか先輩は知らないだけだよ。メンタルえぐられるのって、怖いとはまた違う感じ」
「ふーん?」
松野はさして興味などないふうに首を傾げた。
重森のため息に、彼の切ない恋心が溶け出る。
「ほら、二人とも。早く課題を終わらせないと、バーベキューできなくなるよ」
私が促すと、二人は気を取り直したようにペンを握り直す。
「はーい」
外は一日で最も暑い時間帯。
虫たちの大合唱の中にツクツクボウシの鳴き声が混じっており、私は静かに午後を感じた。



