「大学受験はせず、高校卒業後はこの塾で働かせてくれって頭下げて、そのまま就職したんだって。すげーよな」
「すごいね……」
物静かな人だとは思っていたが、まさかそんな過去をお持ちだなんて。
危険そうな男性ほど不思議な魅力があると言われるが、彼にもそれと似たような雰囲気がある。
顔もカッコいいし、感情が読めないミステリアスなところがいい。
俊輔の顔に目を向ける。
田中先生ほどの美貌はないが、愛嬌のある彼の顔は好きだ。
だけど、密かに目移りするくらいは許してほしい。
俊輔だって、可愛い女の子はつい目で追っちゃうでしょう?
屋内に戻って、田中先生のメガネを洗った。
重森と飯島は南先生の部屋に連行されたまま、教室には戻っていない。
メガネを返そうと理科部屋を覗いてみたけれど、田中先生も戻っていなかった。
仕方なくメガネを持ったまま、松野一人が待つ国語部屋へ入った。
松野は私を見るなり、課題を進める手を止めた。
「ハジメちゃんと飯島君は?」
不安げに問う。
二人が自分のために戦ったことを、彼女は知っているのだろうか。



