だんだんヒートアップしている。
喚き声に混じって二人の荒れた息の音も聞こえるようになってきた。
「そろそろかな」
田中先生が立ち上がった。
血をたぎらせた二人のもとへ、ザクザクとグラウンドを踏みしめ向かっていく。
大人しそうな人なのに、恐れている素振りもない涼しい顔。
周りが見えていない二人は取っ組み合いをやめない。
今にもどちらかが殴りかかりそうだ。
二人の前まで到達した田中先生は、重森の頭と飯島のシャツの首元を掴み、そのまま力強く二人を引き離した。
勢いでバランスを崩した飯島の手が田中先生の顔面を掠め、彼のメガネが吹っ飛ぶ。
軽い音を立てて地面に落ちた。
田中先生はメガネを置き去りに、二人を引きずりながらこちらへ向かってくる。
ドサッ
二人は私の前で解放された。
情けなく呻き声をあげ、睨み合いを続ける。
メガネのない田中先生の顔が思ったよりずっと整っていて、私は思わず息を飲んだ。
キリッと上がった眉に、美しく通った鼻梁。
印象的な瞳。
そしてキュッと締まった口元。
地味だとか大人しそうだと思っていたのは完全に私の勘違いだ。
メガネのイメージが強すぎた。
たぶん、あのメガネが彼に似合っていないだけだと思う。
「お前ら、もういいだろ」
さっきの『お疲れ様です』となんら変わらないトーンでそう告げる。
まるでなにか暗黙の了解でもあるかのように、二人は闘志の色を消した。
ただ、納得がいっていない風ではあるが。



