死んだように横たわっている木に近寄ってみる。
八方に立派な枝を伸ばし、葉もびっしりと生えている。
倒れているのに、高さは2メートル以上ありそうだ。
試しに自力で動かしてみようと思ったが、枝を掴んで引いてみてもガサガサ音が鳴り、枝が折れるだけで無駄だった。
台風の力って恐ろしい。
雨粒が雨がっぱを打つ音で気づかなかったが、ふと人の話し声がした。
消防団の人たちに違いない。
人がいる!
それだけのことが、こんなにも安心させてくれるなんて。
しばらく聞き耳をたててみると、チェーンソーのような機械音も聞こえ始めた。
人と人が何かを話している。
その中に、俊輔の声が混じっている。
彼なら私がいることに気づいてくれると思い、私は叫んだ。
「おーーーい!」
暫く耳を傾けたが、返事はない。
チェーンソーの音でかき消された?
よし、もう一度。
「おーーーーい!」
風は弱まったけれど、雨はまだ強い。
この程度の声じゃダメか……?
「――――!」



