切り際に二言三言言葉を交わし、電話を切る。
「松野。これから消防の人が来て、塞がった道を何とかしてくれるって。宿舎に戻る準備、始めようか」
松野に伝えると、彼女は覚悟を決めたような固い表情で軽く頷いた。
私たちは各々支度を始める。
乾かすつもりで床に広げておいた靴下を履いてみたが、数時間経っても全然乾いてなくて気持ち悪い。
この分だと、靴はもっとひどいことになっていそうだ。
かたや適当な場所に広げて干しておいた雨がっぱは、念入りに滴を落としておいた甲斐あって、多少乾いている。
「私、ちょっと様子見てくるから。松野はここにいて、絶対に出ないでね」
「わかりました。気を付けてくださいね」
「うん、ありがとう」
私は雨がっぱを羽織り、予想通りべちょべちょに濡れたままのスニーカーを履いて外に出た。
気を抜くと足を取られてしまうほど強かった風は、かなり弱まっている。
朝は目を開けて歩くのもやっとだったし、葉っぱや枝まで降ってきて怖かったが、だいぶ安全に出歩けるようになったようだ。
ただし、地面に落ちた枝や葉に足を滑らせぬよう気を付ける必要はある。
また、舗装されていない道は雨水によってぬかるんでおり、慎重に踏み出さないとここでも足を滑らせてしまいそう。
風が止んだところで、足場の悪さは侮れない。
転ばないように気をつけながら一本道を下る。
脇の森を見渡すと、強風に折られたと思われる枝が、他の木の枝に引っ掛かっているのが見える。
もしあれが自分の頭上に降ってきていたらと思うとゾッとする。
数分間坂を下っていくと、緩いカーブの先に黒味がかった緑色の障害物を発見した。
木だ。
葉の生えている樹冠の部分で、どの幹から落ちてきたのかは上を見上げてもわからない。



