横殴りだった雨は重力に従うようになっていた。
風が弱まった分、外は大分静かになった。
携帯で台風情報を見ると、この地域は通過したようだ。
もう少し雨が弱まれば、一本道も開けて助けも来るだろう。
松野は荒れた人間関係を整理する勇気を持たねばならないし、危険を顧みずに逃げたことを咎められる覚悟を決めねばならない。
ーーヴー ヴー ヴー……
外が静かになった分、携帯のバイブ音が余計に響いた。
発信元は俊輔だ。
「もしもし」
『彩子? 俺だけど。今消防から連絡があって、これから来るって』
「本当? よかったぁ」
今日中に宿舎に戻れることがわかってホッとした。
もしかしたら今日はここで夜を明かすかもしれないと、密かに不安に思っていた。
『俺も作業手伝うから。彩子はそこにいて』
「うん、わかった」
『腹減っただろ? 飯、食堂のおばちゃんに残してもらってる』
「ありがとう。助かる」
ふだんはヘラヘラして頼りないくせに、私が心細く感じている時は必ず安心させてくれる。
だから彼を好きになったのだと、改めて自分の気持ちを認識した。
『風呂も早めに用意してもらったから。戻ったら入って体を温めて』
「うん……ありがと」
鼻の奥がつんと痛む。
目に涙が溜まるが、こんな顔を生徒である松野に見られてはいけない。
松野は私よりずっと不安なはずなのだ。
溢れないようグッと堪える。



