なにかとわかりやすい俊輔が浮気なんて器用な真似、できるわけがないことはわかっている。
でも、可能性はゼロではないし、小谷先生は俊輔に気があるっぽい。
気にならないなんて、悠長なことは言ってられない。
「市川先生のこと、好きなんですね」
松野がうらやましそうに息を漏らす。
「好きだよ。ああ見えて結構いい男なんだ」
「あははは。ああ見えてって、一言余計じゃないですか?」
「ふふふ、そうかなぁ」
そういえばこの合宿生活で、もう数日彼と抱き合っていない。
付き合いはじめて一年弱、こんなに彼の体温に飢えるのは初めてのことだ。
思い出すと恋しくなって、代わりに自分で自分の腕を抱くように擦ってみる。
当たり前になって気付いてなかったけれど、私、俊輔に満たされてたんだなぁ。
幸せなんだなぁ。
松野にも、こんな恋愛をしてもらいたい。
ちゃんと松野のことを思いやってくれる人と、幸せな状態が当たり前の恋愛を。
そう思ったとき、ひとりの少年の顔が頭に浮かんだ。
「そういえばさ、松野的に重森ってどうなの?」
「え? 重森って、ハジメちゃんのことですよね?」
松野は首をかしげる。
「そうそう。あんたたち、いいコンビじゃん。ああいうタイプの方が松野には合ってたりして」
……と、さりげなく勧めてみたりして。
これで私と俊輔のことを黙っておいてくれた分はチャラってことでいいはず。
「ハジメちゃん、生意気な割にはいいやつだとは思いますよ。最近勉強も頑張ってるし、ああ見えて根は真面目なのかも。ちょっとうるさいけど」
さすが松野。読みが的確だ。
でも。
「……それだけ?」
案外いいやつで、根は真面目。
「それだけですね」
重森よ……残念だが、今はまだ時期ではないようだ。



