『もー。俺にも言っとけよー』
不満げな声を出す俊輔。
拗ねた顔が想像できて、私はまた笑った。
直後、受話口から水の流れる音が。
声の響き方、そしてこの水の音。
「ちょっと俊輔。あんた話ながら用を足してたの?」
『そうだよ。だってトイレ行くからって出てきたもん』
案の定だった。
「汚いな。終わってからかければよかったじゃん!」
『えー、だって電話も片手、小便も片手じゃん』
「いやいやそんなの女の私は知らないから」
そのあとも二言三言言葉を交わし、笑いながら電話を切った。
まったく、しょうがないやつめ。
なんて思いつつ、頬の筋肉が緩んでいることに気づく。
視線を感じて松野の方を見ると、彼女は唖然とした顔でこっちを見ていた。
「え、なに?」
私はのんきに首をかしげる。
「先生の彼氏って、市川先生だったんだ」
しまった!
隠さなきゃいけないことを全く意識せずに話してしまった。
完全にふたりの世界だった。
あちゃー。
重森にもバレてるのに、私はダメダメだ。
「えへ」
もはや笑ってごまかすしかできない。
「なんだー。そうなんだー」
松野は心底意外そうに呟きながら、サックスをケースに戻している。



