ーーヴー ヴー ヴー……
演奏が終わるタイミングを見計らったように携帯が鳴り出した。
発信元は俊輔だ。
道が開く目処が立ったのだろうか。
「もしもし?」
『彩子? まだ消防、来られないんだ。そっちは大丈夫か?』
不自然に小さな声。
他の生徒たちは予定通り勉強時間のはずだ。
トイレに行くふりでもしてかけてきたのだと思われる。
「うん、こっちは大丈夫。結構楽しんでるよ」
『えー。小屋には何もないし、暇だろ』
「だと思うでしょ。でも松野がいいもの見せてくれたんだー。そっちはどう?」
『いつも通り。あのふたりにも、松野が見つかったことは話したよ』
「そっか。ありがと。あ、重森は?」
気になるのは重森だ。
松野も私もいないあの国語部屋で、ひとりでどうしているんだろう。
『ああ、あいつな……』
俊輔が少し声のトーンを変えた。
何があったのだと、彼女の私にはすぐわかる。
「どうかしたの?」
『松野と彩子のこと、しつこく聞かれてさ。俺、しばらくは何でもないってごまかしてたんだけど……』
「けど?」
『あいつに俺らのことバレてるみたいでさ。他の生徒にバラされたくなかったら教えろって脅されて、答えさせられた』
重森め。
このタイミングで使いやがったか。
私は思わず笑ってしまった。
「ああ、重森ね。うちらがチューしてんの、見たんだって」
『なんだよー。彩子、知ってたの?』
「うん。まあ、私の生徒だからね」



