慣れた手つきでケースからサックスを取り出し、肩に掛け、マウスピースを取り付ける。
ミチッと、思ったより重そうな音が立った。
松野は数秒間、慣らすように指を動かす。
そして大きく息を吸って、吹き込んだ。
重いけれと割れるような音が部屋いっぱいに広がる。
ビリビリと音が体にぶつかってきて、振動が心を揺さぶる。
奏でられる音色は、滑らかなのにハスキーで色っぽい。
この音色を生み出しているのが、まさか15才の少女だなんて誰も思わないだろう。
艶かしいいのに迫力がある演奏に、私は一瞬で虜になった。
音がスムーズに変わるたびに、私の体になにかが刻み付けられるような不思議な感覚がして、鳥肌が立った。
演奏には相当な体力を要するのだろう。
顔が苦しそうだ。
だけど、これまでの4日間で見たどの松野よりも人間らしくてカッコいい。
重森にこの姿を見せたら、きっと惚れ直すのではないだろうか。
演奏が終わって額に汗をかいている松野に、精一杯の拍手を送った。
その音が部屋に響く。
まるでこの部屋までもが彼女の演奏に魅せられたよう。
「松野! あんた超カッコいいよ!」
松野は照れたような顔をして一礼。
清々しい笑顔に、私は少し泣きそうになってしまった。



