松野は顔を上げずに質問を続ける。
「恥ずかしくないですか? 裸とか見られるの」
「最初はね、ちょっと恥ずかしいかな。でも不思議と慣れちゃうんだよね」
初めて俊輔に肌を晒したときの羞恥心なんて、とうに忘れてしまった。
慣れすぎてもいけないなとは思うけど、彼にならいつ触れられても構わないという安心感こそ、愛や絆だと思う。
「怖くはないですか? 病気とか妊娠とか」
「大切にしてくれる人は、怖くないようにしてくれるよ」
無理を強いてまで迫る男や無責任に避妊を怠るような男に、身を委ねてはいけない。
怖いと思っているなら、きっとそれは『まだダメ』のサインなのだと思う。
松野が膝に埋めていた顔をヒョコっと出し、顎を膝に乗せた。
視線の先は窓。
外は相変わらず雨が横殴りに降っている。
「私ね、合宿中に彼氏ができたんです」
飯島のことだろう。
「うん」
私は知らないふりをして……というよりは、ニュートラルに相づちを打つ。
きっと松野は、私が大体のことを知っていることを察している。
「でも、彼に笑いながら言われたんです」
「なにを?」
「週に1回くらいはヤらせてほしいって」
「うわ……最低」
いくら頭の中が真っピンクな高校生といえど、彼女に対して思いやりの欠片もない。
飯島のやつ、本当に松野のことを好いているのだろうか。
「ですよね。その言葉を聞いたら、なんか冷めちゃって」
「当然だよ」
飯島本人は冗談のつもりで言ったのかもしれない。
でも女にとっては、体目当てだと、大切にする気はないのだと、そう言われたも同然だ。
だって性交渉の末に傷つくのも、リスクを負うのも、女なのだから。



