「ジャズかぁ。カッコイイじゃん」
「先生もお好きですか? ジャズ」
「詳しくはないけど、友達のジャズオーケストラのライブになら、何度か行ったことあるよ」
うちの大学には、わりと大きなジャズサークルがある。
学内では有名で、演奏もレベルが高くて迫力があり、人気が高い。
俊輔とも、ライブに行ったことがあった。
「私も、そういう活動がしたいんです」
「うん。きっとできるよ」
こんなセリフ、なんだか“いい先生”みたいでくすぐったい気持ちがする。
松野が舞台でカッコよくサックスを吹くところを想像してみた。
案外似合っているかもしれない。
5年後の松野なら、きっと。
「ふふっ」
「なんですか、急に笑い出したりして」
「別にぃ」
今はまだ、飾りっ気のない15歳。
これからどんどん大人になって、色っぽくなってゆくのだろう。
その頃に、また会いたいな。
今日のことを笑って話せたらきっと楽しい。
開けたお菓子を空にして、食事終了。
いつ助けが来るかわからないから、残りのお菓子は取っておくことにした。
「さて、お腹も落ち着いたところで、そろそろ聞こうかな」
私の呟きに、察した松野の表情が固まる。
その表情を「どうぞ」ということだと解釈して、私は単刀直入に尋ねた。
「なにがあったの?」
松野は答える前に、ごろんと寝転んだ。
答えはすんなり出さないが、考えている素振りはある。
ボキャブラリーに乏しいのが悩みである彼女なりに、言葉を選んでいるのだろう。
答えないつもりではないということは、ちゃんと伝わってきた。



