パリパリと小気味よい音を立てて砕けるポテチを噛み締める。
空腹時のスナック菓子って、どうしてこんなに美味しいんだろう。
「ご飯も食べずにお菓子なんて、なんだか悪いことしてる気分ですね」
松野は少し楽しそうにそう言った。
「ほんとだね」
食事の前についおやつを食べて、準備してくれた食事が入らず母親に怒られてしまったときのことを思い出す。
大学に進学してからはひとり暮らしであるため、誰も食事について注意なんてしてくれなくなったけれど。
「さすがに喉が乾きますね」
「ここにはそこの水道水しかないよ」
「知ってます。朝に一度飲んだんですけど、自然の中だからって水道水は美味しくならないんですね」
「ま、しょせん水道だから」
私たちはお菓子を食べながら、しばらくは当たり障りのない話をした。
お菓子でもこれだけ食べればまあまあお腹に溜まるようで、小さく見えてこれだけ量があるのだから、なるほどお菓子を日常的に食べる者は太るだろうと、妙に納得した。
「松野、サックスやってるんだ」
私がこのことに触れると、彼女の顔色がパッと明るくなった。
「はい。私、吹奏楽部なんです」
よほど部活……あるいはこの楽器が好きなのだろう。
「わざわざ持ってきたの?」
大きな宿泊道具もあるのに、さらにこのケースを持ってきたのだから、意外と体力と根性のある子である。
「合宿の間は部活に参加できないので、少しでも練習しておこうと思って。音を出すとうるさいので、部屋で指だけ練習してました」
「へぇ、そっか」
松野は部屋の端に置いたケースを眺めて、チョコをひとくち頬張った。
そして少し小さな声で、ぽつりと告げた。
「ジャズ、やりたいんです」
私は松野の話がよく聞こえるよう、パリパリ音の響くポテチを素早く噛み砕いて飲み込んだ。
「ジャズ?」
「今は吹奏楽部で主にクラシックを演奏しますけど、大学に入ったらジャズサークルに入って、演奏会とかライブとか……出たいなって」
ジャズといえば、色気のある音楽だ。
ときに静かで、ときに楽しく、ときに激しい、大人の音楽。
落ち着いたベースラインにピアノの音が踊るように乗り、トランペットが派手に暴れ、サックスがクールに響く。
15歳の少女から、そんなオシャレで色っぽい言葉が出てくるとは思わなかった。
夢を語った彼女の表情は、照れを含んでかわいらしく歪んでいる。



