茜がスマートフォンの振動に気づき、ポケットから取り出す。
表情がパッと明るくなって、メッセージの送信元が拓也であると悟った。
「あ、拓也が待ってるから行くね」
「うん。また明日」
茜と拓也を見ていて、うらやましいなと思う。
二人はたまにケンカもするけれど、お互いのことを大切にしている。
信頼関係が確立されていて、互いを束縛することもなく、だけど二人の時は人には見せられないほどにイチャイチャするのだとか。
理想的な関係だ。
中山と二人のような恋人同士になれるだろうか。
実は今日は、中山と約束がある。
2回目のデートだ。
「椿さん。行こっか」
帰り支度を整えた中山が、周囲の目を気にせず私のもとへやって来た。
彼を好いている女子からの視線が痛いが、遠慮しても仕方がない。
「うん」
私も仕度を済ませ、中山と一緒に教室を出た。
中山と並んで歩くことに、緊張を感じなくなってきた。
学校の移動教室の時や、登下校時にたまたま一緒になった時にも並んで歩いたが、彼は適度な距離を保つのが上手い。
「俺らもやっと夏休みだな」
「そうだね。でも短いし、今年は遊ぶ予定なんてないよ」
「俺も。受験生は受験生らしく、勉強しないとな」
私たちは最近、このような他愛もない話ばかりしている。
ありがたいことに、告白のことを蒸し返したり、返事を急かしたりはしない。
だけど、いつまでものらりくらりとかわし続けるわけにはいかないと、わかってはいる。