昨年、夏の終わり。

私が横浜に帰った日。

新幹線の駅までは従姉妹と叔母が送ってくれて、淳一は駅のホームまで見送りに来てくれた。

高校生と大学生のカップルに神奈川・兵庫間は遠すぎる。

かたや教員採用試験を控え、かたや来年は受験生。

淳一は高校教師を目指しており、高校生と交際していることが知れるとよからぬ誤解を受けるだろうことも、口には出さなかったが暗黙の了解だった。

ふたりで納得して決めた別れだ。

「じゃあね、じゅん」

「気ぃつけてな」

新幹線の停車時間は短い。

列車が来てしまうと、別れまではすぐだ。

「さくら」

「なに?」

「もし俺らが、またどっかで会うことがあったら……運命かもしれへんな」

「運命……」

「俺、その時はまたさくらを好きになると思う」

嬉しかった。

私たちの未来を夢見ていたのは私だけじゃなかったんだとわかって、別れの寂しさと悔しさが増した。

「うん。私も」

私はこの最後の言葉を覚えていたし、信じていた。

だから淳一との再会を、本当に運命だと思った。

……けれど。

「俺らが付き合ってたことは、なかったことにする」

「もう俺には話しかけるな」

最後の言葉は嘘になった。



淳一と出会って、一年。

高校生活最後の夏休みが始まった。