淳一がこの学園の生徒と……という不謹慎な想像を膨らませる茜の話を聞き流しながら、中庭の淳一を眺める。
額の汗を拭う仕草ですら、昨年の淳一を思い起こさせる。
幸せな思い出がいくつも思い出され、胸がきゅっと締め付けられた。
そのタイミングで、淳一がこちらを向いた。
ふと目が合う。
ヤバい、見てるのがバレたかも。
私は慌てて目を逸らす。
悪いことをしているわけじゃないのに、どうして罪悪感にも似た気持ちを抱かなければならないのだろう。
「あ! おっくんがこっち向いたよ」
茜は喜び満面の笑みで手を振る。
淳一は彼女に気付いてサッと軽く手を上げ応えていた。
この日の放課後。
私は宿題を終わらせるため、教室に残ることにした。
拓也のプレゼントを買いに行くからと、幸せそうな顔で教室を出た茜を見送り、教科書とノートを開く。
いつもは何人か教室に残るが、梅雨の晴れ間で出掛けたくなったのか、今日は私ひとりのようだ。
しばらくすると、教室には私だけになった。
その方が、集中できていい。
――ガラガラッ
教室の扉が開く音がして、顔を上げた。
「あ、椿さん」
開いたドアのところに剣道の防具を身にまとった中山が立っている。
面と籠手は着けていないが、上履きがやけにミスマッチだ。
「中山くん。どうしたの?」
彼が剣道をやる姿は見たことがない。
防具姿は新鮮だ。
「タオルを1枚忘れたのに気づいて取りに来た。椿さんは宿題?」
「うん。今日は多かったから、やって帰ろうと思って」
「そっか。偉いね」
中山が歩くと道着と防具が擦れる音がする。
彼は迷わず自らの席へ行き、椅子にかけられたタオルを手に取った。
袖から覗く腕が逞しい。
ただの爽やかなクラスメイトだった中山が、急に「男」に見える。
ユニフォームの力はすごい。



