「古典担当、中野敦子(なかのあつこ)先生」

女性の方の教師が名前を呼ばれ一礼している姿を、再びチラッとだけ見る。

上品なスーツを身にまとっているが、気が強そうな雰囲気がある。

彼女は何かそれらしい挨拶をしているが、興味が持てず、今度は自分の爪をいじって暇を潰す。

「英語担当、奥田淳一(おくだじゅんいち)先生」

奥田淳一。

この名前が聞こえた瞬間、心臓が止まるかと思った。

瞬時に視線を壇上へと移す。

私の心臓は、止まるどころか全身を脈打たせるほど強く鼓動する。

聞き覚えのある名前だった。

いや、聞き覚えなんてものじゃない。

強い執着心さえある。

奥田淳一。

私が今でも忘れられず、今でもたまに思い出しては涙を流すくらいに想っている、元恋人と同姓同名だ。

まだ本人と決まったわけではない。

私は奥田淳一と呼ばれた男にゆっくりと視線を移す。

彼のスーツ姿なんて見たことがないし、当時とは少しだけ髪型も髪色も違う。

しかし、私はその教師が彼本人であることがすぐにわかった。

「えー、今日からみなさんと一緒に勉強します。奥田と言います。よろしくお願いします」

スピーカーから彼の声が聞こえ、全身が切なく震える。

特徴的な声は、それが彼自信であることを確信させてくれた。