教室に戻ると、茜と拓也が私たちを待ってくれていた。
「最後の挨拶、してきたの?」
茜の問いに、深く頷き答える。
「うん」
拓也は私と淳一のことを知らないから、挨拶の相手は暗黙の了解だ。
私のために恋人にも黙ってくれていたことを、本当にありがたく思う。
「俺らもそろそろ行くか」
「そうだね」
中学から6年間、通い慣れた学舎を出る。
私立らしい配色のキレイな校舎。
整備された芝のグラウンドでは、サッカー部とラグビー部が走り回っている。
テニスコートからは爽快なボールの音が、弓道場からは矢が的に刺さる音や掛け声が聞こえる。
校舎の方からは、吹奏楽部の楽器の音が聞こえ始めた。
私はもう生徒として見ることのない景色や聞くことのないBGMを、心にいっぱい吸収しようと深呼吸する。
さようなら。
心の中でそう告げ、私は門の外へと足を踏み出した。
三年後。
私は懐かしい校門を通り、スーツを着て再びこの高校へとやってきた。
「いやー、お前全然変わんねーな!」
いつの間にやら教頭へと出世していた元担任が、私の背中をバシバシ叩く。
地味に痛い。



