伝えるべきことは伝えた。
これで本当に卒業。
お別れの時間だ。
私は雄二の手を取った。
「じゃあね、“先生”」
私が手を振ると、淳一もさっと手を上げた。
「おう。お幸せにな」
さよなら、淳一。
いつになるかわからないけれど、またいつか会える日まで。
「あれでよかったの?」
屋外から校舎に戻ったとき、雄二は心配そうな顔で尋ねてきた。
「うん」
私の答えを聞いて、彼は呆れたようにため息をつく。
「だったら、そんなに泣かないでくれる?」
「……ごめん」
淳一に背中を向けた瞬間から、涙が止まらない。
だけど別れが悲しくて泣いているわけではない。
ひとつの恋からようやく卒業できたことを喜ぶ、感動の涙である。
私は淳一が好きだ。
きっとずっと大好きだ。
私はこの気持ちを成就させるのではなく、心の箱にしまって“思い出”のラベルを貼り、大切に抱いて生きていく。
私が今、大切だと思う人と共に。
「ま、いいけど。今日は卒業式だし、慰めるのが俺の役目だし」
「雄二のそういとこ、大好きだよ」
「な……何だよ急に。俺も好きだよ」
「ふふふ。これからもよろしくね」



