私もいよいよ彼のそばを通過する。
通い慣れた高校なのに、高校最後の年になって、毎朝校門を通過する度に緊張するはめになるとは思ってもみなかった。
「おはよう」
淳一と二人の教師が私に向けて声をかける。
返さないわけにはいかない。
「おはようございます」
横目で淳一を見る。
何食わぬ顔で他の生徒にも声をかけているのが腹立たしい。
「おっくん」なんて呼んでいるみんなに言いふらしてやろうか。
私、おっくんの元カノなんだよ。
付き合ってるときは「じゅん」って呼んでたよ。
要は彼に気軽に話しかけられる生徒たちへの嫉妬だ。
「話しかけるな」
「なかったことにする」
好きな人にここまで言われた自分が、惨めで仕方がない。
淳一は私の“ハジメテ”の男だ。
そして今のところ、唯一の男だ。
鈍い痛みも、甘い痺れも、身体にしっかりと刻み込まれている。
なかったことになんて、できるわけがないのに。



