淳一は優しい彼氏だった。

丸い目をにっこり細める笑顔が好きだった。

私を呼ぶときは、「さくらぁ」と最後を伸ばすのが好きだった。

こう見えて彼は喫煙者なのだが、童顔のせいでタバコを買うときは頻繁に身分証の提出を求められていた。

「またや。何で俺だけ見せなあかんねん」

店を出てからぶつぶつ文句を垂れるときの顔も、かわいかった。

私は大人びて見られることの方が多いから、うらやましがられていたっけ。

「もう俺には話しかけるな」

怖い顔をしてそう言ったあの男は、私の好きな奥田淳一なんかじゃない。

あんな冷たい男じゃなかった。

別人だ。

担当学年も違うわけだし、関わらなければいい。

もう話しかけないし、できるだけ会わない。

私はそう決意したのに、神様はどうも意地悪だ。

私たちはこれから、毎朝顔を合わせることになる。