中山が私の涙を拭う。

こんな人に好かれているのに、自分から胸に飛び込めない私はなんて愚かなのだろう。

私の性格を理解して粘ってくれる彼を、淳一以上に好きになれるだろうか。

「椿さんはまじめすぎ。甘えることとか、人を利用することとか、ズルいことも覚えたほうがいいよ」

「中山くん、私」

「雄二」

「え?」

「そろそろ、名前で呼んでほしいな」

この数ヶ月、私のことを思って、少しずつ距離を縮めてくれた。

「雄二……私」

「うん、なに?」

「私、甘えてもいい?」

もう他に誰も見えないというくらいに好きでないと、一緒にいてはいけないと思っていた。

でもそのれは現実離れした理想で、恋に恋する子供の幻想なのかもしれない。

彼の言う通り、ズルいことも覚えてみた方が、楽に生きられる気がする。

「もちろん、心行くまで甘えさせてあげる。その代わり、他の男には甘えないで」

「うん」

淳一を好きな気持ちは捨てきれない。

抱えたまま別の人に愛される。

そうしようと思えたことか進歩なのかはわからないけど、乗り越えるために必要だと思った。