「ねぇ、じゅん」
「先生と呼びなさい」
「……先生。ここではこっちの言葉、話すの?」
始業式での挨拶も、職員室でも、淳一は標準語だった。
「郷に入っては郷に従え。関西人キャラはオイシイけど、変に期待されんの嫌やしな。お笑いセンスとか」
「そっか」
私は生まれも育ちも横浜で、訛りや方言などほとんどない。
関西弁の中でも、テレビでよく聞く大阪弁とは少し違う神戸独特の訛りが好きだ。
特に淳一の声で聞くそれは格別だ。
それが聞けないのは、残念としか言いようがない。
「というわけで、さくら」
「はい」
「もう俺には話しかけるな」
淳一は教師モードのスイッチが入ったようにますます厳しい顔をしている。
あまりに残酷だが、本気で言っているとわかる。
「話すのもダメなの?」
私が「それくらいは許してほしい」という気持ちで見つめると、淳一はすぐさま目を逸らし、私に背を向けた。
「……俺のクビと、さくらの進退がかかっとうしな」
そして小さくそう告げ、私から逃げるようにこの場を去って行った。
せっかく会えたのに。
約7ヶ月ぶりなのに。
今でも好きなのに。
積もる話や聞きたいことだってたくさんあるのに。
「じゅん……」
私は去って行った彼の背を見送り、その場にしゃがみこんで泣いた。
別れてからもずっと彼を思い続けていた私の気持ちは、再会を機に見事に散ってしまった。



