「じゃあ、段さん。サイモンくんの隣へどうぞ」
それを聞いて、俺は心の平穏にグッバイした。
無表情な転入生より、ぽっちゃりブラザーのほうが何倍もマシなのに。
「はいみなさん、仲良くしてあげて」
そんなセンセーのセリフ。
俺はそのセリフが、この教室ン中で一番、罪深いもののように聞こえた。
だって、「あげて」って。
「ダン ゴのえ」はそんなもん、望んでねーじゃん。
ダチンコ作ってわっほいてタイプでもない。
望んでねーよな。
あの無表情と興味なしぶりじゃあね。
そんな俺の心中など知るわけもねえ、「ダン ゴのえ」はやっぱり無表情のまま、静かに空いた席に腰掛けた。
ガタガタッ。
大人しそうなツラして、随分と乱暴に引きやがんなぁ。なにをって、イスを。
乱暴者なのか、ただ不機嫌なのかは知らねえけど、だーかーらぁ、空気読めよ!
なんか気まずくなるじゃん!
そんなんじゃダチンコ出来ねーぞ!ってお母さんみたいなこと叫びたくなる。
(あ、要らないんだっけ)
「……」
チラ。
小さなダンゴが乗ったアタマが、なぜか、こっちを見ている。
チラチラチラチラ、いや、パンチラじゃなくてさ。
チラ見ってやつ。
既にチラ、でもねえ。ガン見。ガン見されてる、俺。
「はいじゃあ、ホームルーム終わりますよー」
壇上のセンセーがお決まりの宣言。
なのに、なぜか。
転入生「ダン ゴのえ」の視線は、俺から外れない。
なんで俺のほう見てる!?
なんで!?
Why!?
そして耐久レースに負けた俺が、とうとうチラ、と「ダン ゴのえ」を見た瞬間。
「…ヒヨコ」
はああああああい!?
声でてない。
テレパシーでもない。
唇の動きだけ。
で。
「ヒヨコ」。
ヒヨコて、あのヒヨコ?
俺のアタマのこと!?
ウァアアアイ!?
なに言っちゃってんのこの人。なに言っちゃってんのこの人!
あ、決めたわ。俺、決めた。
お前は今日から「ダン ゴのえ」は卒業だ。
「段 このえ」でもない。
「ダンゴ」で充分だろ!?
ウァアアアイ!?


