臆病なサイモン










「サイモーン、行こうぜ」

威勢のいい声に呼ばれてハッとなる。

最近増えた年齢コードのない寂れたカラオケ店に入って三時間。
新曲のプロモ流しながら盛り上がって相変わらずのハイテンション。
学校でも目立つ奴らが今日は集まってるから、ソファで跳ねるわクラウザー様並みに叫ぶわもうカオス。

でもこういう時は、そういったテンションに任せてればいいだけだから大して身構えもしない。
ふと冷静になった瞬間に、無性に帰りたくなったてしまうことを除けば。

ダチンコのひとりがケツメーシ歌ってる最中、同じクラスのダチンコが俺に近付いてきた。

表情変えずにどした?て首傾げてみたら。



「なぁなぁ、聞いた?段このえの噂」

まさかの話題。

一瞬、段このえがなにを指す言葉か判らなかったが、そこはスルー。

てかウワサてなに!?まさか俺と屋上で密会してるとかなんとかってウワサ!?

ジョーダンじゃないぜブラザー!



「……いや、知らないわ。なに?」

内心、ダチンコの口からなにが飛び出すかビクビクしながらなんとか平静を装う。

そんな俺にダチンコはにやにや笑顔を浮かべてきた。

おいおいなに言う気だよ!

なにも知らない俺に気分が上がったのか、ダチンコはこっそりと耳打ちしてきた。いやほんと俺は無罪だ。



「段のヤツ、二組の男子と同棲してるんだってよ」

こそっ。

ケツメーシの間奏二十四秒間。その間に放たれた「ウワサ」に、俺はろくな反応も示さずダチンコを見た。

「……はあ?」

ドウセイ、という響きは、まだチュー坊の俺らには実感の湧かないものであって、しかもなに、あのダンゴが、二組の男子とドウセイ、…同棲?

馬の耳に念仏、じゃねーや寝耳に水ってまさにこれ。

最近よく喋る相手がまさかそんな色っぽい噂の渦中に居るなんて誰が思う?

思わねーよな。な、ブラザー。

だってしかも。



「……これマジらしいよ。二組の男子んとこに居候してんだって。その男子本人が言ってたから間違いねえって!」

ドウセイ、とイソウロウ、じゃ随分ニュアンスが違ってくるがまあいい。


「なんで居候?あ、親戚とか?」

なんか部屋が見つかるまでの仮住い的な。

まさかそんな事情があるとは思いもしなかったダンゴの話に、俺は知らずそれを追求していた。