慣れないそれはどこか胸を穏やかにはさせない。
シャカシャカとイヤホンから漏れる音を聞きながら、ダンゴはどう思ってるんだろう。
俺の場合は、ただ単純に、慣れなかった。
妙な心強さと違和感、それから新鮮味が少々。
そして危機感。
「……気合い」
下手にココロを開いたりしたら、俺はきっともう、屋上にはやってこれない。
今、俺の隣でイビキ掻いて寝てやがる厭世家ダンゴは、俺という「人間」にとって要注意人物だ。
(……だって、俺と似てる)
今の俺は、こいつにココロを許したら、多分パンドラの箱的ななにかが解き放たれてしまうような気がしてる。
眠っているダンゴは、カバンを抱えて寝苦しそうに眉根を寄せている。ブサイク。
……あ、ほくろ発見。
顎の真下にあるそれは、今の角度じゃなきゃ気付かなかったかもしれない。
(あ、よだれ垂れそう……)
締まりの悪い唇の端に、てらりと光る滴、見っけ。
こんな明け透けに、誰かを凝視観察するなんて初めてかもしれない。
こんな風に、「誰か」とふたりきりでなにかを共有するなんてのも、多分初めてだ。
付き合いが長いダチンコでも、したことない。
だって「ふたりきり」、てさ、なんか怖いじゃん。
三人二人を相手にするより、たった一人の相手してれば済むハナシだからさ。
俺と違って間抜けで人見知りしない高尚な人間には、心の余裕を産む。
だからきっと、俺がひた隠しにしてる穴やヒビに気付くはずだ。
その穴やヒビってのは、人間の欠点や汚点のことで、ふたりきりになるとそれが如実に目立ったりするんだぜ。
特に俺の色素の薄いバリケードなんて、バケツに張った薄氷みてーなもんだから。
(……もし、)
俺がそんなこと言ったら、ダンゴはどう思うのだろう。
不毛なヤツだ、って鼻で笑うか?
どうでもいい、って一蹴されるか?
それとも。
「……こわいなあ、答え聞くの」
それは怖いもの見たさと似たような感覚で、俺は愚かにも、ちょっと聞いて欲しくなったんだ。
なぁダンゴ、あんたはどう思う?