まぁ本気でセンセーだなんて思わないけど。
「今、映画館でしてる?」
「してないよ。古い映画だから」
チュー。
パピコの容器から、透明の割合がぐんと増える。
吸って吸って吸い尽くすと、口ン中の上顎あたりが痛くなるよね。ね?
水分が乾上がってビリビリする感じ。
どうでもいいけど。
「映画、詳しいの?」
好きなの?と俺が紡ぐ前に。
「……そうでもないけどね」
パピコから離された唇がちょっと笑った。
どこか遠くを見るような、誰かをそっと労るような、なんかそんな感じ。
「……親が映画好きなの。邦画洋画アニメ、ジャンル関係なしに片っ端から一緒に観てた」
ジャンル関係なし。
じゃあさ。
「えーぶぃも?」
「それ映画枠?……エマニエル夫人ならポルノ映画なんだろうけど」
「えまにえるふじんてなに?どんな話?」
「……エマニエルさんが未知の体験をしてはっちゃけちゃう映画」
なんて、ほんとは知ってるけどさ。えまにえるふじん。
そういうの大好きなブラザーが、俺たち未成年が恥ずかしがらずどうやったらそういう映像を観れるか、って話題になったとき、言ってた。エマニエル夫人なら一応映画枠だからレンタルするとき恥ずかしくなくね?って。でもどう考えても恥ずかしいよねそれ。もうそれ目的で借りましたって言ってるようなもんだしね。しかもそれを隠そうとしてるところがなんかすっごく恥ずかしい。ってことで却下になったんだけど。
だから観たことないけど、どんな映画かは知ってる。
でもなんか気まずいから、この場では知らないふりするけど。
からになったパピコをぱたぱたと行儀悪く動かしながら、ダンゴは瞼を和らげた。
エマニエル夫人を観た時のことでも思い出しているんだろうか。
眦が和らぐと、ダンゴの顔は全体的に力が抜けて幼くなる。
こういうの見た時、普段の無表情はもしかしてダンゴなりのポーズなんじゃないかと疑ってしまったり。
そして疑ったあとで、そんなの俺には関係のない話だろ。そんなつまんないこと気にしてやるなよとか、自己嫌悪しちゃったり。
「……あち」
空が高い。
大部分を白い雲が占めるのに、なんで夏の空ってこんなに清清しく見えるんだろうか。
じわじわと汗が滲んでくる。
影が足りなくて、伸ばした脚先には太陽の息が舐めるように掛かっていた。
(暑すぎ……)
でもダンゴは、汗は掻いてるもののさして苦痛には感じてないぽい。
あ、南国出身か。
「ダンゴの地元ってどんなとこ?」
暑さを誤魔化すように口にしたら、ダンゴの眦が更に溶けた。
溶けたように見えるくらい、柔らかくなった。
「……田舎だったよ。どこそこ山、川、畑ばっかで」
でも吹く風はひんやりしてて、木陰に入れば涼しかった、って笑う。
こういう話する時だけは、眼の輝きっぷりが違うんだよな。
「温泉地だったから、うちの地元の人間の風呂には温泉が湧いてたよ」
「なにその贅沢なオプション」
「私には当たり前のことだったけど、こっち来て特別だって解った。肌荒れた」
あぁまあね、都会の水はね。合わない人にはほんと合わないからね。
でも別に荒れた様子は見受けられないけど。


