「……別に、サイモンくんは何様なんだろ、と思って」
何様もクソもないけど、なんか俺、怒られてるのかな。
ダンゴの言葉にトゲはあっても、その無表情からはトゲは感じられない。
午後、夕刻。
この時間帯の、沈む前の最後の足掻きかってくらいギラギラ鋭さが増した太陽の下でも、ダンゴの表情に変化はなかった。
「自分からお友達のままで、なんてお願いしときながら、後でギャーギャー喚く子もどうなのって話だけど」
チュー。パピコが吸われてゆく…。
「デリカシーがまるでないんだろうね、サイモンには」
チュー。
でりかしーがまるでない。
ときたぜブラザー。
「……でも、たかだか中学生でデリカシーあるなしとか下らなすぎるし、気にしなくていいんじゃない。馬鹿馬鹿しいな」
わーすげー毒舌。その影で俺が傷付いたり女の子が泣いたりしてるってのわかってんだろうか。
「人間としてそれは幸せなことだと思うよ、私は」
傷付くこと涙すること。「人類」のオプション。
クサイこと言いやがるよなー、なんて思いながらさ、ダンゴの横顔を一瞥して。
「…チュー」
気だるげな首筋にまた髪が張り付いている。
少し伏せられた睫毛がやる気ない。
唇だけがパピコに濡らされて、赤くて潤ってて、瑞々しい。
なんだよ、ピンク脳してんの俺もじゃん。
「……そういうのを至極端的に表す言葉もあるしね」
ふぅ、とパピコを吸い続けていた唇を休める。
「なんて言うの?そういうの」
毒舌でも無神経でも、なんか素直にその言葉を聞いちゃうのは、きっとそれをダンゴがなんでもないことのように捉えているからだ。
軽くもないし重くもない。
だから真面目に聞かなくて済む。
だからなにも考えなくていい。
「……青春」
ダンゴは、同年代の俺やダチンコ達と比べて、ずっとひねくれてて、斜に構えてて、そしてなにより、妙に大人びてる。
「イイえてみょー」
まるでセンセーだ。
学校じゃ毎日のように起こる「青春」と喚起されるものに教科書はない。
その教科書のない科目をヤル気なく教えてくれる、お団子頭の、小さなセンセー。
「青い炎のアヤヤは異常」
「なにそれプロモ?」
「映画。サイモン、観てみたら。君も甘酸っぱくなれるかもよ」
そしてバイブルをさりげなく差し出すような、宣教師。


