臆病なサイモン











『お前のキンパツが、好きだよ』



…落ちたのに、俺はなにも、言えない。

ぐしゃり、と心臓を突き抜けて、その言葉はじわじわと血液に溶けてゆく。


胎内に染みていくそれになにも言えないまま、フルーティーな香りに釣られるように。



「…、」


泣きそうになりながら、顔を、上げた。


そんな俺は、オヤジの姿を見た瞬間、まるで銅像になっちまったみたいに、カチンと固まるハメになった。



「…な?」

今の今まで、影と胴体と手しか直視していなかった俺の目に、信じられないものが映る。

いつもの鼻、いつもの口、いつものホクロ、いつもの眼、いつもの皺、いつもの―――、黒々と揺れていたものが、なかった。




「…なに、してんだよ」


マジで、絶句、した。

黒々と伸びていた髪は、今や見る影もない。


野球部のゴリン刈りのように短い髪は、黒くなかった。



―――オヤジは、「キンパツ坊主」っていう、超イカすアタマになってた。